嫌いな上司が嫌いじゃなくなる考え方

先日私の施設でこんな相談を受けました。

スタッフA「係長(介護スタッフ)の仕事が雑で困っています。やるって決めたこともちゃんとやらないし…係長があんな仕事の仕方をして良いんですか??みんなからも同じような声が上がっていて、係長どんどん嫌われていってます!」

私「そうなんだね〜、どんな仕事の仕方をしているの?」

スタッフA「20:00の就寝薬を19:30に内服させたり、Bさんの食事介助も早々に切り上げてしまうし…慌ててるのか係長が明けの朝に薬が落ちている事が多いんです!」

私「わかったよ!ちょっと本人と話してみるね」

介護部の係長に対して、部下の不満を聞いた場面です。

こういう会話って多いんじゃないかなと思うのですが、実はこの会話って噛み合っているようで噛み合っていないんですよね。

こういう具体的な問題に対して、「人には苦手なこともあるよ」とか「何でも完璧な人はいないから」という抽象的なワードで諭す人もいると思うのですが、これは抽象的な視点がないと理解できません。

一スタッフであればあるほど抽象的な視点を持っていないので、「またそうやって誤魔化す…」「全然話しを聞いてもらえない」ってなっていくので、余計関係は悪化していきます。

今日はその事象を具体と抽象の視点で考えていって、上司を「嫌い」ではなくなる考え方を学んでいきましょう。

言葉の分解

最初の「係長(介護スタッフ)の仕事が雑で困っています。やるって決めたこともちゃんとやらないし…係長があんな仕事の仕方をして良いんですか??みんなからも同じような声が上がっていて、係長どんどん嫌われていってます!」という言葉。

この言葉の中に色んな抽象的なキーワードがあります。 一つ一つ分解していきたいと思います。

嫌われる

最後にある「嫌われる」という言葉。

嫌われるの反対は「好かれる」ですよね。

「嫌われる」と「好かれる」というのは、抽象度を上げると「その人らしさ」や「性格」という言葉でまとめられます。

そう考えると、「20:00の就寝薬を19:30に内服させたり、Bさんの食事介助も早々に切り上げてしまうし…慌ててるのか係長が明けの朝に薬が落ちている事が多いんです!」という具体的なエピソードが、好き嫌いに関わる内容ではないことが分かるかと思います。

これは仕事の仕方に問題があるだけであって、その人を「嫌う」理由にはならないということです。

つまり、今回の問題は「嫌われる」という感情論からは切り離さなければいけないということになります。

一般的に好かれる上司は「やさしい」「明るい」「頼りになる」等の印象で、嫌われる上司は「人に厳しい」「気分屋」「嫌な事を部下にやらせる」とかになります。

このことからも、今回の相談は本質的に好き嫌いの話しではないなってことがわかります。

係長が

「係長があんな仕事の仕方をして良いんですか??」と言われてしまっているのですが、これは係長という役職と結びつける話しではないんですよね。

なぜかというと、係長とは会社組織の役割だからです。

係長の役割とは何でしょうか?それを考えるには会社組織の理解が少し必要になります。

まず、社長が目指したい抽象的なビジョンがあります。

「地域に根ざした医療・福祉を展開したい!」みたいな感じです。

この抽象的なビジョンを具体化していくのが組織の役割です。例えば…

  1. 「社長」地域に根ざした医療・福祉を展開したい!
  2. 「部長」すべての居宅系の介護保険サービスを展開したい!
  3. 「課長」既存の事業は安定して黒字化していてほしい!
  4. 「係長」稼働率◯◯%維持する!そのために主任をマネジメントする。
  5. 「主任」退去から新規入居まで1週間以内で調整できる体制にする!
  6. 「リーダー」慣れたスタッフが辞めない体制を作る!
  7. 「サブリーダー」みんなが専門職として能力を発揮できる施設にする!

みたいな感じで、抽象的なビジョンは下に降りるに連れて具体化されていきます。

極端な話しですが、この①〜⑦のどこかに責任を持つのが役職者です。

係長としてどうなんですか?という評価をする場合には、この会社のビジョンを具体化するため目線でしなくてはいけません。この場合は、主任のマネジメントが主な業務になります。

このマネジメントというのは、一つの介護業務より抽象度の高い問題になるので、一つの介護業務を役職の役割とイコールにして評価するのは間違っていると言えます。

というか無理なんですよね…

私は管理者ですが、「管理者なんだから◯◯して下さいよ!」という言い方が通るとしたら、何から何までしなくてはいけなくなりますから…

つまり、役職としての役割は役職の役割として見なくてはいけません。

介護職員として

では、係長を介護職員として考えてみるとどうでしょうか?

「20:00の就寝薬を19:30に内服させたり、Bさんの食事介助も早々に切り上げてしまうし…慌ててるのか係長が明けの朝に薬が落ちている事が多いんです!」

いずれの出来事も、介護職員としては注意すべき点ですよね?

つまり、介護のあり方として仕事の仕方を見直していただかなくてはいけない問題ということになります。

この問題に、「係長」という役職や「その人らしさ」という人格は関係ないのです。

しかし、多くの人は役職や人格を混同しているので、「この人はダメだ」とか「ついていけない」みたいな想いになっていくのです。

抽象度をあげて考える

私の施設で働く係長は男性なのですが、彼は仕事だけをして生きているわけではありません。

さらに抽象度をあげていくと、彼は父親であり、ただ一人の人間です。

彼は3人の子供がいて、休みの日はいつも子供のサッカーの試合に付き添っています。妻に言われて反論することなく朝から妻の車を洗車して出勤してくる愛妻家です。突発性難聴から耳が聞こえにくくなり、スタッフとのコミュニケーションに苦労しながら、仕事中はそれを言い訳にすることなく「ごめんねー!ごめんねー!」と言いながら明るく元気に毎日働いています。施設の看取りの取り組みには率先して行動してくれて、みんなの不安を一手に担い、どうすれば皆んなが働きやすいかを考えている良い男なんです。

このように、抽象度をあげてその人を捉えてみると、その人の素晴らしさが見えてきます。仕事をしていると、仕事の場面での評価だけになってしまうことが多いですが、もっと大きくその人を見てみると、違った見え方ができるようになります。

こうなると、「好き」「嫌い」という極端な評価で人のことを見ることがなくなります。

上司もただの人間。コンビニに家庭ゴミをちょっと捨ててみたり、優しく見えても家庭では偉そうに子供に説教もするんです。

具体的な視点からその人を評価してしまうと、ダメなところばかりが見えてきてしまいます。一度同じ人間だと思って、抽象度をあげて考えてみると、良いところが見えてきたり、ダメなところが当たり前に感じてきます。

その良い人がダメなことをしてしまうほど余裕がなければ、あなたが力になってあげてほしいなと思っています。

と、自分の施設で起こったことなので、ちょっと最後は熱くなりましたが…(笑)

ぜひ身近な人の行動や言動を考えるとき、抽象度をあげる意識をしてみてください!