共感の罠

福祉業界にいると、「共感=素晴らしい」と学んで理解している方が多いと思います。

僕は、仕事に限らずあらゆる場面で共感力が高いほうが良いと思っていたのですが、ジャーナリングしていて気づいたことがあったのでまとめます。

共感する時は?

対人援助の場面で相手に共感する場合、何を目的に共感しますか?

この答えは「信頼関係を築く」ことだと思います。

信頼していない相手に生活上の困りごとを話そうとは思わないですからね。あとは、どうしようもない喪失感(身内の死や役割の減少)とか、病気の予後に対する恐怖は共感することで気持ちが軽くなると思うので、援助の過程で必要なスキルです。

職場の仲間の会話、例えばケアマネを受験する人同士だと、こんな感じで…

「勉強してる?私は全然進まないんだよね〜、仕事終わったら疲れてそれどころじゃない」

「わかるー。私も全然やってない。仕事しながらって無理だよねー」
みたいな感じで共感し合って気持ちを楽にすることってありますよね?

こういう共感もあると思います。

ただ、これを上司・部下の間でやってしまうのが僕(とりさん)です。

上の会話の「わかるー」のところを、私が部下に対してやってしまうことがあります。

「え?気持ちを理解することって良いことなんじゃないの?」って思う方もいるかもしれませんが…ダメなんですよね。

その理由は次に書きます。

良い人になってしまう

共感を示してくれる上司は、気さくに何でも話せて、関わりやすい人になると思います。

しかし、それで終わりです。

ケアマネ受験の勉強を例にすると…

部下「今年受験なのですが、全然勉強できてないんですよ…仕事終わったら疲れちゃって…」

上司「わかりますよ!仕事終わったら勉強どころじゃないですよね!」

と、こんな感じです。

話した部下は「皆そうなんだ!」と解釈して、勉強できない自分を肯定できてストレスが軽減するかもしれません。

しかし、その部下は、共感された時点で考えることを止めてしまいます。

これではずっと不合格が続いてしまいます…。これは部下のためになっていないですよね。

そう考えると、共感は「仲間意識」や「友達」という感覚をもちやすく、相手にとって良い人になる関わりであると言えます。

共感しないとどうなる?

上司が部下からケアマネ受験の勉強が進まないと相談された場合をイメージして、共感し過ぎずに対応する例を考えてみました。

「今年受験なのですが、全然勉強できてないんですよ…仕事終わったら疲れちゃって…」

「そうなんですね!そもそもなんでケアマネ受験するんですか?」

「腰が痛くて、介護の仕事を続けていくのが不安なんですよね。家族もいるから仕事しなくちゃいけないし…でもズルズル受験だけ続けて、今年で3回目になります。」

「なるほど。今後の働き方の幅を広げたいんですね!仕事って色々あるけど、なんでケアマネを選んだのですか?」

「やっぱり人と関わる仕事がしたいんですよね。だから介護業界以外のことは考えませんでした。そうなるとやっぱりケアマネかなって…」

「素晴らしい選択だと思いますよ!じゃぁ今年絶対合格した方が良いですよね?なぜ勉強できないんですか?」

「何故でしょう…なんかやる気が出ないんですよね!」

「ではそもそも、受験する理由に納得いってないんじゃないですか?合格したほうが良いと本気で思っていたら勉強できると思いませんか?」

「そうなんですけど…自分でもよくわからなくなってきました。」

「そこがよく分からないから、勉強ができないのだと思いますよ。今まで聞いた話しでは、合格したほうが良い理由しかお話ししていないので、勉強できない理由が逆によく分からないですね…」

「そう言われると、介護の仕事をしていたらいつかは受験するもの、みたいに思っていたと思います。わかりやすい目標だし…」

「そうですね。わかります。でも、誰が作ったかわからない常識や、誰かから見て…という考え方では、根本から自分のこととは思えないので、本気で行動するのが難しくなっていきます。もう一度自分の人生やこれからやりたいことなど、しっかりと向き合って考えてみてはどうですか?」

「そうですね。自分が納得できるように考えてみます。」

「考えがまとまったら声かけてください!いつでもお話し聞きます。」

こんな感じでしょうか?

わかる!なかなかできないよね!と話しを終わらせるのではなく、言っていることの矛盾点を考えてもらって、本質的な考えを探るようなイメージで話しができます。

上司は部下にとって良い人ではなく、気づかせる人にならなくてはいけないんですよね。

共感する場面を選ぶ

共感せずに話しの背景を聞いていくと、その人の本当の気持ちとか、向き合ってない本心みたいなものが見えてきます。

上司・部下の関係では、部下が目標達成できるように関わる必要があります。

関係性を作るために共感する必要はありますが、悩みに対して共感するだけでは目標達成が困難なことが多いです。

私の感覚としては、【関係性を作る=共感】ではなく、【関係性を壊す=否定】だと考えています。

対人援助にしても、上司・部下にしても、共感しすぎると本質的な話しを見失う可能性がありますので、ちょっと意識してみると良いかなと思います!